人はなぜ愛する我が子を虐待するのか
日時:令和4年3月27日 13:30~15:30
場所:あいち・子どもNPOセンター
講師:大岡啓二さん (元名古屋市児童虐待室主査)
講師の大岡さんは、元名古屋市職員。仕事で出会った民生委員さんのつぶやきが印象に残っていました。
「ほんと、今の人たちはめぐまれているわよねえ」「なのに、 親として自覚がちっともないから困ったものね
え」 確かに行政の立場は、「子育ては親に第一義的責任がある」です。一方あるNPO団体の方のつぶやきは
「所詮、人間の子どもは親だけでは育てられないのよね」 この言葉が心にずっと引っかかっていたそうです。
平成23年に名古屋市内に起きた児童虐待死亡事件を契機に設置された
児童虐待対策室に平成27年度から着任され、少しでも子どもの危機を感
じたら「躊躇なく親から引き離す」という方針をとらざるを得ない現状と、
そこにまつわる多くの理不尽や矛盾に愕然としたそうです。早期退職した
のち、児童虐待の根本原因の解明というテーマに挑戦し、「人はなぜ愛す
る我が子を虐待するのか」を上梓されました。今回はその著書の内容を中
心にお話していただきました。
児童虐待は繰り返し起き、どこの家庭でも起こりうる一般的な問題であり、社会問題であるはずですが、
個人の責任にすり替えられています。そして、その根本原因はほとんど解明されていません。そこで、人間と
は何か?人間の子育てとは何か?を考えるにあたり、人類の進化から見つめていきました。直立二足歩行に
なったことにより骨盤の形状が変化し、出産が困難になり、人間の子どもは早産で未熟なうちに生まれるよ
うになったのです。その上、成長が遅く非常に長い子育て期間が必要です。子育てが終わらないうちに次の
子どもが生まれ、成長段階の異なる子どもを同時に何人も育てることになるのです。
また、暮らしぶりも原始の時代は集団による共同生活が主体で、血のつながりを越えて助け合い、集団に
よる子育てが人間本来の子育てでした。しかし、個人主義の潮流、地域のコミュニティの消滅により、現代の
子育ては「孤育て」「ワンオペ育児」人類史上初めての子育てを経験しています。親が親だけの責任で「私
的」に子育てをすることの問題点は、親が子どもを私物化し、家庭という他人の目の届かない密室空間が悲
劇を生む要因となります。親が描く理想像に近づけるため、真逆であるはずのしつけから虐待へと一線を越
えていってしまいます。本来なら子ども自身が描くなりたい姿を目指して、子どもが主体的に学び、経験し
努力していくものです。励まし、援助し、見守り続けるのが親の務めといえましょう。子どもには子どもの人
格があり、自由があり、人権があるのですから・・・。
講師からいくつかのワードを提示されました。
・子育ては親の責任か
・家庭の子育て力が低下したのは本当か
・「しつけ」とは何か
・親の役割とは
これらのワードを手掛かりに、グループトークを行い、学びを
深めました。グループトークでは、参加者が日々の活動の中で出
会う親子の姿を報告することで、 現代の子育て事情が如実に見え
てきました。インターネットの普及で情報過多な現状の指摘もあり、子育てに関わる問題の難しさを痛感し
ました。しかし、一人では限界があるものの多くの仲間たちと知恵を出し合い、地域の子育て伴走者となる
べく努力したいと決意も新たにしました。 (文責:岩根)